実にそのおかげであろうか。それ以来、道具としてのSeek R2に対する愛着がぐんと増した気がしている。教本片手にホイールを外し、リムテープを換え、チューブを換え、タイヤを換えとあれこれしているうちに、わずかに残っていたスポーツバイクに対する遠慮のようなものは消えて、必要とあらば自らいじって調整する身近な道具となった気がするのだ。
さて、結果として自転車と私の関係を一歩進めてくれた、そのパンクではある。
自転車通勤者として、これは確かにそのまま放っておくわけにはいかぬものであった。2月半ばにSeek R2を買い求めて以来、2、3、4月と格別何事もなく過ごしたのであったが、5月の連休最終日にパンクを喫してからは、どういう具合かパンクづいて、6月は13日、27日と続けざまであった。幸いどちらも通勤時ではなく、特に予定もない休日だったからまだよかったのだが、普通に走って2ヶ月足らずで3度(フロント2、リア1)というのはいかにも多すぎた。平日でも休日でもパンクの不安を抱えて走行するのは愉快なものではないし、そもそもこれでは安んじて自転車通勤を続けるのが困難である。というわけで、これは是非とも原因を究明し、必要な対策を講じざるべからずと思われたわけであった。
原因と言えば、前々から気になることがないでもなかったのだ。(3度の内、初めのものは単なるリム打ちパンクであったが、後の2回はどちらも尖ったガラスや金属の微小片を知らぬ間に拾っていたことによる貫通パンクなのであった。)出来合いで着いていた台湾製のMaxxisのColumbiere (700×32)は本来ロード用のタイヤらしく、わずかに入っている斜めラインを除けばほぼスリックと言っていいものだったが、ゴムやコンパウンドの性質のせいか接地面が柔らかで、クロスバイク用に32mmと幅広なこともあってか路上の異物を非常に拾いやすかったのである。石や金属やガラスなどのかけらがどうもくっつきやすく、くっつきやすければ当然離れにくくもあって、タイヤ表面についた微小片の中にはそのまま落ちずに喰い込んでくるものもあった。表面に喰い込んでもそのままなら大したこともないような、ごくちっぽけな微小片なのだが、小さいながら(或いは小さいが故に)ものによってはタイヤが転がるうちに表面コンパウンドからタイヤ内部に棘のように潜り込むのではないかと気になっていたのである。最初は路面に当たってカツカツ音もするが、ゴムに呑み込まれてしまえば音は消える。乗っている方はタイヤの回転でうまい具合に飛んでいったのだろうぐらいに考えて、まあ大丈夫と高をくくって走り続ける。その間に小さな異物は気づかれぬままにタイヤ内部に埋まって身を潜め、ある程度以上大きな圧力が加われば、いつでもタイヤゴムを貫いてチューブを傷つけんと密かに機会をうかがっているのではあるまいかと疑われた。そうであればこれは一種の感応式爆弾と言ってよく、棘に圧力がかかりグッと押されてわずかでもタイヤの裏側まで通ってしまえば、もうそれで終わりだ。チューブはほんの一刺しで傷ついてしまう。
先月13日のリアタイヤのパンクは、スーパーの駐車場から歩道に出る、自転車用に設けられた階段2段分の勾配をゆっくりと下りた時であった。27日のフロントのパンクは、押しボタン式信号機のところで信号が替わるのを待っていて、さて替わったというので一段分高い歩道から横断歩道にゆっくりと下りた時である。共通しているのはそこそこの勾配をゆっくり下りたという点で、考えられる可能性は3つであった。下りきってタイヤにグイッと圧力がかかったところで、
- ちょうどそこにあった尖った何かを踏み抜いた。
- 直前にタイヤが拾い、そのままわずかに突き刺さっていたかけらが一気に押し込まれた。
- 既に以前からタイヤ内部に埋もれ潜んでいた微小片の尖端が圧力を受けて遂にチューブに達した。
さて、どれであったろうか。いずれにしてもその時まで私は不心得にも携帯ポンプはおろか、換えチューブも、パンク修理キットも持ってはいなかったのである。幸い現場は店こそ違え、両日とも自転車屋の近くで、不幸中の幸いそのまま店に担ぎ込んだのであったが、店では微小な尖った何かがチューブに穴を開けたらしいと確認されただけで、残念ながら穴を開けた異物の発見、特定には至らなかった。1ならば(運が悪いのか、不注意なのかはさておいて)まあ仕方のないことだが、2、3ならば路上ゴミを拾いやすいタイヤの性質によるところが大きく、3は特に危惧された。そうであればタイヤを換えぬ限り今後も同じようなパンクが繰り返し起きる可能性が高い。私も2度目の13日時点ではまだ余裕があったのだが、わずか2週間後の27日の3度目となると強い危機感と不安を覚えざるを得なかった。
というわけで、3度目のパンク修理の間、修理を頼んだ店に並ぶ自転車やパーツ類を眺めながら考えたのである。
タイヤはパンクするものではある。当然だ。しかし、しやすいとなれば別であろう。このタイヤはどうもパンクしやすい。この調子でパンクした日には大変だ。まだ1000キロと乗っていないが、もう交換するべきだろうか?
タイヤとは何か?自転車にとってのタイヤとは、我々にとってみれば靴のようなものであろう。ならば、一年中同じものを履き続けるのは、かえっておかしいとも言える。靴はその都度履き替えるもので、取り替えの利かない足の裏の皮ではない。天候や気候に応じて、また目的地や用途、路面状況や靴の状態に応じて、相応のものを選んで履くのが普通だ。当然その方が合理的だし、安全でもある。靴自体も長持ちする。ならばである。自転車でタイヤを、年がら年中同じままに履き続け、履き潰すまでそのままというのも随分おかしなことには違いない。車でさえ冬にはスタッドレスに履き替えるのだ。肉体の延長たる道具としては、よほど我々の足に近い自転車なのだから、普通に靴を履き替えるように、日常的にタイヤを履き替えてもいいわけではあろう。いや、履き替えるべきではないか。
ここまで考えは進んだが、まだ修理が済まないので、店内をぶらつきながら更に考えた。
我々の靴が自転車のタイヤならば、足は自転車のホイールであろう。脚はフロントフォークやフレームに当たろうか。人の自由度が靴の交換までであることを考えれば、足も脚も換えることのできる自転車の自由度はかなり高い。さて、そうすれば我々が靴を履き替えるのは、自転車の場合タイヤではなく、むしろホイールごと履き替える姿に近いように思えてきた。タイヤそのものの交換は出発前の作業としては些か手間がかかり過ぎる。ホイールごと換えるのであれば、自転車をひっくり返せばすぐに済むではないか。それぞれ性質の違うタイヤとホイールが2、3種類あればよいかな。パンクせずに急ぎたい通勤時、思い切って遠出をする休日、近所での買い物、舗装路以外の悪路走行、雨、雪、冬の凍結路、目的や状況に応じた適正な組み合わせで適正な走行が可能となるのに違いない。これは悪くはない考えだ。
ここまで考えても、まだ修理は終わらない。どうもてこずっているようだ。私の考えは遂に具体的な領域に入り込んだ。
数種類ずつと言っても、実際はメインとサブの2つがあればホイールは足りよう。(3組目は我が財布が許すまい。)さて、ではこれは具体的にどのように可能だろうか?我がSeek R2は700cのホイールを履いてはいるが、フレームのエンド幅がMTB仕様の135mmで通常の130mmではない。おまけにディスクブレーキだ。ということは即ち、
- 選択肢の豊富な700cのロード用完組みホイールはことごとく使えない。
- 反面、MTB用の26インチホイールならそのまま使うことができる。
- 選択はディスクブレーキ対応ホイールに限られてくるが、Vブレーキやサイドプルブレーキのようにホイール交換の度にブレーキを調整する手間がないから、必要に応じて履き替えようという当初の目的にはかなっている。
ということになる。
さて、700cと26インチ、どちらがよいか。スピードなら700、冬のことを考えれば26だが。朝のスピード・アップもいい。冬の通勤の安定も確保したい。エンド幅が135mmで径が700、しかもディスクブレーキ対応というのはさてどれほどあるものだろう。26インチも悪くはない。そもそも完組みがなければ手組みという手もあるぞ。う〜む。
結論が出ぬまま修理は終わったのだが、結局、パンク問題の解決と通勤時のスピード・アップを目論んでタイヤは交換することにしたのである。そのまま店ではタイヤレバーと携帯ポンプを購入し、家にもどってWiggleでタイヤを注文した。
Seek R2の出来合いのホイールはAlexrimsのAce-18で、リムの内側の溝幅は16.5mmである。その1.4~2.3倍までが適当なタイヤ幅だという計算に従えば、25~37cまでのタイヤの装着が可能であった。32を履いていて32というのも面白みがないので、色気を出してやや細身の25と28cの2種のタイヤ(ContinentalのUltra GatorSkinとGrand Prix 4-Season)と予備を含めて5本のチューブを求めた。 品物は程なくして無事にポーツマスから届き、100£余りの買い物に関税もかからなかった。
タイヤが届き、それではいざと休みの日に初めてタイヤ交換を敢行したのだが、初めてにしては意外にもすんなりうまくいって、そうして今日に至ったわけである。
交換したタイヤの効果は実に大きかった。細くした分、総じてギア1段分は優に軽くなったし、Maxxisで気になっていた路上の異物の噛み込みは見事になくなって、気がつけば、しばらく悩まされたパンクの不安からフッと解放されていたのである。その名の通りUltra GatorSkinの皮は丈夫で、接地面もサイドも十二分に強く、乗っていてもまずパンクする気がしない。この差は心理的にも大きくて、この安心感だけでも交換した甲斐はあったと思えるほどである。
※交換後、取り出した元のチューブをふと見ると、35~43c用のチューブであった。これではキツキツだったに違いない。(Giantよ、どうか適正サイズのチューブを入れてくれ。)
取り替えて使おうというホイールの件は目下、心楽しく検討中である。秋に気候がよくなった頃、新しいホイールでツーリングができるといいだろうか。