これで話が終わってもいいのであるが、この心地よさに味をしめた(例によってあまり加減を知らぬ)私は、その体勢を更に推し進めてやろうと今度はエアロバー(BBBの安い物)を取り付けてみることにした。
トライアルでもトライアスロンでもなく、ただ通勤のためだけのエアロバーである。通勤特化型のエアロバーなど耳にしたこともなく、クロスバイクにエアロバーというのもスニーカーにスパイクを付けるかのようで多少の違和感も覚えぬではなかったが、それはそれ、スタイルより実、バランス感覚より好奇心をとることとした。一言で言えば、ただやってみたかったのである。
私が通う朝の通勤コースは、その行程のほぼ6割を5車線(上り3、下り2)の幹線道路が占めているのだが、その内上りの1車線が朝だけバス専用となる。だから、我々自転車組はその端を走ることができるのである。バス専用車線だけに一部のクソッタレな(失礼)不心得車両を除けばバスとスクーター類ばかりであるから、空気はよろしくないが(バスのディーゼルの排気ガスをもろに浴びぬように気をつけなければならない)、混み合うことの多い横の上り2車線を尻目に、我々はひたすらこぎ進めることができる。そしてそんな道を朝、我が不徳の致すところで時間に追われて走っているうちに、いつの間にかそこを目一杯走ることが眼目となったのである。無論、そうしなければならぬ理由は特段あるわけではない。勿論、前方に快適に疾走しているスポーツバイクを見つけたからといってシャカリキに追いかけねばならぬ理由もないわけだが、なぜかボールを転がされた犬、棒を投げられた犬のように猛然と追いかけてしまうのである。時に追いつき、時に追い越し、時に追いつけず、 時に突き離されと色々だが、いずれにしても私は朝から大汗をかき、中年おやじの新陳代謝は大いに亢進するのである。(これで空気さえよければ健康的な朝の運動とも言えるのだが。帰りは排ガスを避けるために道を変えるようにしている。)
通販で取り寄せたが、取り付けは簡単でアーレンキー1本で足りた。付けてみると見た目の印象は一変し、
以前が小牛なら、
今度は牡鹿、
鹿の角(Hirschgeweih)であり、
或いは夜間防空戦闘機(Uhu)であった。
上体はさすがにずいぶんと寝て、ハンドルにかぶさるようであったが、慣れてしまえば問題のない範囲ではあった。腰にぶち当たっていた空気が切り裂かれて空気抵抗は減り、ペダルを回す脚にもかなり力が入る。体を折って懸命にこぐものだから、呼吸はせわしくなり、心拍数も上がって、それだけの負担もあるわけだが、速いことは速くなった。(おまけに、これは全く当初の意図の外だったが、きつい登り坂が大いに上りやすくなった。)
心配されたのは体勢が体勢だけに尻の痛みや尿道付近の痺れの問題であったが、我が尻もサドルになじんだのか、これもエアロバーの姿勢に慣れる頃には特に違和感もなく平気になっていた。
見た目が大仰なのと重量増、ライト類の設置など問題がないわけではないが、前のバーエンドバー同様、このエアロバーも悪くはなかったようだ。高速巡航性ばかりではない。スピード以外でもエアロバーがありがたいと思ったこともあった。
休日に張り切ってそれなりの距離を走りに出かけた時のことである。この日は初めから少々遠出のつもりでいたから、楽なはずの前傾の緩い普段の姿勢で走り続けていたのだが、そろそろ2時間になろうかという頃、ずっと順手で腕を突っ張っていたせいか、遂に肩や首の辺りが痛くなってきたのである。そうなるともう全体のバランスまで崩れて尻まで痛くなる始末。元気までなくなってきて、帰り路が心配になってきた。休憩に適した場所もなく、それらしい所までそのまましばらく走ろうかと、他にしようもないので仕方なくエアロバー体勢に姿勢を変えてみたのだが、これが思いがけず救いとなったわけである。初めは痛みをこらえエッチラオッチラこいでいただけだったのだが、そのうちスムーズに脚が回るようになってきて、いつの間にか肩の痛みも尻の痛みも消えていたのである。思いがけず調子を取り戻した私はそのままスピードを上げてこぎ続け、時に自動車と競いまでして、結局4時間に及ぶサイクリングを終えることができた。
まあ、これはエアロバー故というのではなくて、体の一部に負担が掛かり続けていた姿勢を改めたことによるのでもあろうが、それでも仮に普通にハンドルの両脇にバーエンドを立てていただけだったら、ああうまくは痛みが解消されることもなかったのではないだろうか。Seek R2には切らなければ標準で600mmのハンドルがついているのだが、この幅で両脇のバーエンドを握っても腕が広がりすぎてよろしくないのである(腕と胸が苦しくなる)。なんやかんやでハンドルを握る腕の幅は肩幅位が一番楽であるし、握る手は縦が楽である。エアロバーで上体や腕が最も望ましい状態に収まったというのではないのだが、それでも低くしたフラットバーを順手握りで腕を突っ張って上体を支え、首を肩にめり込ませているよりは何層倍もよかったのである。距離が短ければ何がどうでも左程のこともないが、ある程度以上の距離でハンドル周りの設定がまずいと苦痛は非常に大きくなると知れたのであった。普段、片道10km程度の通勤では、それが少々の違和感程度で看過されていたのだったが、長く乗った結果それでは済まなくなったのである。適切な姿勢が確保されているか、いないかで体への負担の多寡は驚くほど違ってくるものらしい。上体の適度な前傾を保証する、適度な幅、適度な高さ、適度な距離の縦握りでないと長距離は無理だと思われたわけであった。
私は適当に走りながら、適当に自転車をいじり、子供のようにあれこれと学んでいる。試行錯誤や無知故の愚かな行為から知れたことの多くは、分かっている者にはごくつまらない類の事柄なのだが、自分自身の身をもって知ること自体に些かなりの価値もあろうかと我が愚を慰めている次第だ。
さて、次は何を、どう変えてみようか。なかなか懲りぬのである。
s.自転車通勤とGiant Seek R2:初めてのパンクとバーエンドの取り付けなど (2009/5/23)
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