ざわめく海原の上に明るい灰白色の空がひろがり、おおらかな風が開け放しの空間を吹きわたっていく。海藻や小さな貝殻の散らばった砂の上をどこまでも歩いていくと、目につくのは遠くから流れついて半ば砂に埋もれた物の数々である。気の向くままに拾い上げてみよう。
2010/10/07
試したビールにがっかりした話
こちらに戻ってきてからは、昔と違って、ほとんどビールもワインも飲まないのだが、先日10日ばかり開かれていた仙台オクトーバーフェストでHofbräuhausの旨いビールを久しぶりに飲んで、ここ数年の間に随分増えていた国産プレミアムビールをふと試してみる気になったのである。
神奈川にいた時分は、流通し始めた地ビールはさておき、大手メーカーのまともなビールと言えばヱビスかモルツ、ブラウマイスターやビール職人、ハートランド程度しかなかった。比較的ヱビスを好んできたが、基本的には上面発酵の豊かで複雑な香りと味わいを愛する者としてはどれもこれも物足りないものであった、というより求めるところのものがそもそも違っていたのだろう。時折びっくりドンキーの自家醸造ビールや七沢森林公園そばにあったイタリアンのセルバジーナでさがみビールを飲んで溜飲を下げるほかなかったのである。麦芽、ホップ、水、酵母のみで副原料を一切認めないビール純粋令を信奉しているので、世に出回っている米やコーンスターチの入った変に臭いものは気に入るはずもなかったし、ましてや酒税法の間隙を縫って無理にこしらえたビールもどきなどは端からインチキ以外の何物にも思われなかったものだから、大っぴらに軽蔑していた。(今もしている。)だから当時は、一人で飲む分には出来うる限りまともな地ビールを買うようにしていたのだ。少々価格の高いのが玉に傷だが、中には"よなよなエール"のように手頃なものもあった。
というような偏屈な経緯を経て今回試しに飲んでみてがっかりしたのが、アサヒの2009年のアメリカのビールコンテストで金賞受賞というアサヒ ザ・マスターである。缶の色からして、そしてヱビス黒の隣にあったこともあり、てっきりdunkel系のビールかと思って求めた時点で既に半ば間違っていたのである。上面発酵の複雑な香味を求められない以上、その代わりにローストの香味を味わうつもりでいたわけだったからだ。それでガッカリしたところから始まったのも良くなかったのだが、気を取り直して飲んでも、それを引っくり返すだけの妙味を感じることはできなかった。アサヒにしてはしっかりした味わいだし、スーパードライなどとはまるで違う落ち着いた完成度だが、どうも残り香が良い具合でない。まあ、普通なのだが、フーッと軽やかにも豊かに鼻を抜ける、花や果実の華やかさが鼻孔をくすぐる芳香を求めていた私にとっては何とも期待とかけ離れたモノクロームの世界であった。発酵の仕組みが違う以上、そんな芳香を求めるのは初めから筋違いなのだが、だからこそ黒ビールを選んだつもりでいたのだ。ところが間違えた。間違えて行き着いた先がアサヒ製のレーヴェンブロイを少しだけ重くして、ホップと酵母の苦味から爽やかさを取ったような、やや鈍なドイツ風ピルスナーであった。
びっくりドンキーは家の近くにもある。そこからビールだけ買ってくることができれば、少しは私の渇きも癒されるだろうか。無論、持ち帰りビールはない。かえすがえすも残念なことである。先日の旨いビールが仇になったというべきか。
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